部下とコミュニケーションが噛み合わない、若手が育たない――。
そんな悩みを抱える管理職の方は多いはずです。
特に、価値観や働き方が大きく変化する今、従来の研修ではカバーしきれない現場の課題も増えています。
前回の記事では、このような課題の原因を深掘りし、「多様性マネジメントプログラム」がどのように役立つかをご紹介しました。
まだお読みでない方は、ぜひ こちらの記事 からご確認ください。
本記事では、いよいよその具体的な方法に迫ります。
このプログラムが、どんな変化にも揺るがない「強いマネジメント力」をどう築くのか、
心理的柔軟性や実践的なコミュニケーションスキルを通じてどのように組織を変えていけるのかを詳しく解説します。
読み進めていく中で、今すぐ使えるヒントがきっと見つかるはずです。
Contents
多様性マネジメントプログラムとは
一言で言うと、
「どんな時代でも揺るがない強いマネジメント力」を手に入れるためのプログラムです。
具体的には、以下のようなポイントがあります。
- マネジメントの基盤
すべての会社や組織のマネジメントに欠かせない土台を築く。 - 普遍的な価値観を身につける
小手先のテクニックだけに頼らず、時代や背景が変わっても通用する「価値観」を習得する。 - 実践的なコミュニケーションスキルの習得
研修を通じて、現場で活かせるスキルを学び、効果的なコミュニケーションを実現する。 - 習慣化プログラム
学んだことを持続的に活用できるよう、スキルを習慣化するプログラムを提供する。
これまでにマネジメント研修、メンタル研修、組織マネジメントなど様々な手法を導入してきたものの、
思うように成果が出ない…そんな壁に直面していませんか?
これには明確に原因があります。
一番重要な「マインドの土台」が欠けているからです。
この土台がなければ、いくらスキルを身につけても、最終的には元の状態に戻ってしまうのです。
成果を出すには時間と地道な努力が必要で、性格的な部分を変えるのも簡単ではありません。
しかし、その大切な部分に目を向けず、ただ研修やマネジメントを行っていては、何も変わらないでしょう。
多様性マネジメントプログラムでは、必要なコミュニケーションスキルを実践的に学びつつ、
「心理的柔軟性」という重要な概念に繰り返し立ち返ります。
これこそが、本当に効果的なマネジメントを実現するための鍵となるのです。
これからプログラムの詳細をお伝えしていきますが、まず大前提として、
「会社組織は何のために存在し、人々が集まる理由は何か?」
これをしっかり理解していない限り、どんなにマネジメントスキルや手法を学んでも、組織は変わりません。
なぜ多様性マネジメントが必要なのか?
その理由のひとつは、企業に集まるメインの人材が、まさに多様性を象徴するZ世代が増加していることにあります。
彼らはこれまでの世代とは異なる価値観や働き方を持っており、これが組織運営に大きな影響を与えています。
一方で、企業の目的や価値観が明確でなく、現場に浸透していないことも多く見受けられます。
さらに、そこに加わる現場の人材の多様性が重なる。
上司や管理職はますます対応に苦慮するようになりました。
実際に弊社が経営コンサルティングを行う際にも、若者との接し方が分からないという悩み相談が増えています。
さらに、これからはAIの普及によって、多様化のスピードがさらに加速していくでしょう。
そのため、早めに多様性マネジメントプログラムを導入し、変化に強い組織を構築していくことが重要です。
この記事を通じて、実践できそうな部分があれば、ぜひすぐに取り入れてみてください。
多様性マネジメントプログラムに関心がある方は、こちらからお問い合わせください
第一章「心」会社組織が描く価値のある未来とは?心理的柔軟性を持ち見つめ直す
心理的柔軟性とはなにか?
心理的柔軟性は、個人の心理的問題を解決または軽減するために用いられる心理療法の一つです。
個人が自分の思考や感情にどう向き合い、価値のあることに必要な行動を起こしてもらうため手法です。
この考え方は、会社組織のマネジメントにも応用できることに着目し、弊社はこの概念をベースに組織のマインドやコミュニケーションに焦点を当てた研修プログラム「多様性マネジメントプログラム」を開発しました。
個人の心理的柔軟性においては6つのコアプロセスをバランスよく取り入れることが重視されますが、組織マネジメントでは、明確なステップを踏むことが重要です。
まずは、経営者や管理職が持つべき心理的柔軟性と、目標達成のために必要なステップについて詳しく解説していきます。
会社組織の目的と価値観を明確にする重要性
「ミッション(使命)、ビジョン(展望)、バリュー(価値)」を共有する、という言葉を聞くと、イメージしやすいかもしれません。最近では「パーパス(目的)経営」という言葉も注目されています。
では、なぜ会社組織において目的や価値観を明確にすることが重要なのでしょうか?
それは、会社組織というものは何かしらの目的や目標を達成するために存在する集団だからです。
日々、部下や従業員をマネジメントし、業績を向上させるために取り組んでいるはずです。
しかし、そもそも「どこに向かっているのか?」や「いつまでに何を達成すべきなのか?」が社内で共有されていないことが多いのではないでしょうか?
特に組織が大きくなるほど、この問題は顕著になります。
例えば、数百名規模の中小企業でも、社長の顔を見かけることがない、直接話す機会がないというのはよくあることです。
「今、自分たちは何のためにこれをやっているのか?」という問いが、トップから現場までしっかりと伝わっているかどうかが、組織運営の最も重要な基盤です。
これは非常に大きな問題で、ゴールが明確でないと、
社員はすぐに道に迷ってしまい、結果的に業績の向上から遠ざかることになります。
だからこそ、毎週の会議で上司や管理職、役員が集まる場では、会社の目的や価値観を繰り返し共有することが必要です。
何度も何度も繰り返すことで、少しずつ現場にもその目的が浸透していきます。
この土台がしっかりしていなければ、いくらスキルを磨いても、組織としての成長は望めません。
価値を生み出せていない現状を把握し、受け入れる
会社の目的や価値観が明確になったら、次に必要なのは「現状を正確に把握すること」です。
現状を知らなければ、目標と現在の間にどれだけのギャップがあるのかを見極めることができないからです。
目標というのは「いつまでに、どれくらい達成するか」を示すものですが、ゴールが分かっていても、今の位置が分からなければ、日程や工程の管理ができないというのは明白でしょう。
ここで重要になってくるのが、個々のメンバーがどれだけ現実を受け入れる力を持っているかということです。
先ほど説明したように、心理的柔軟性は組織にも応用できます。
しかし、それを組織全体に落とし込むには、チームやメンバーにもこの柔軟なマインドセットを持ってもらう必要があります。
組織の目的や価値観については、トップや経営陣がリードすることが求められますが、もし現場で目標に達していないチームがあるとすれば、その現実をチーム全体が受け入れることが必要です。
特に、リーダーシップを発揮する部門長や課長などのチームリーダーにとって、現状を受け入れる力が求められます。
現状が理想に達していないことを突きつけられれば、誰でも不快な感情やネガティブな思考が湧き上がるのは自然なことです。
しかし、その瞬間に多くの人が取りがちな行動は、現実逃避です。
つまり、問題を直視せず、できていない現状を認められないのです。
多様性マネジメントプログラムでは、常に会社の目的に対して目標を達成するために必要な行動は何か?
ということに焦点を当てています。
重要なのは、現状でできていないことに対する不快な感情にとらわれるのではなく、これから何をすべきかに意識を向けることです。
第二章では、目標達成に必要な情報を効果的に交換するためのコミュニケーションスキルについて触れますが、
まず前提として、現状の「できていない部分」をありのままに受け入れる姿勢がなければなりません。
どれだけ改善に役立つ情報があっても、現実を受け入れなければ結局それを見過ごしてしまう可能性が高くなります。
上司や管理職は、部下やメンバーに対してこの「心理的柔軟性」を持たせる必要があります。
そのためには、まず上司や管理職自身が現状を受け入れる姿勢を示すことが不可欠です。
チームリーダーがネガティブな事実を受け入れずに、部下に改善を求めることは不可能です。
リーダー自身がその柔軟な姿勢を示すことで、チーム全体の成長を促すことができるのです。
目標達成に必要なチームとメンバーの機能と役割とは?
現状を把握したら、次にすべきことは
「目標との差を埋めるために具体的に何をするべきか」
を明確にすることです。
なぜなら、現状のまま何も改善せずに業務を進めていては、当然、目標達成は見込めないからです。
必要な情報を引き出すためのコミュニケーションについては、次章で詳しく説明しますが、
ここで強調したいのは心理的柔軟性を持ちながら、
「今、何をすべきか?」
という問いに焦点を当てることです。
多くの上司や管理職が「ハラスメントが起きてしまうのでは」と悩むことがありますが、
その多くは「今必要なこと」が明確になっていないため、余計な言葉が出てしまうことが原因です。
もし、会社の目的や価値観が明確で、それに基づいて現状の不足点を受け入れ、
必要なコミュニケーションを通じて部下にネガティブなフィードバックを伝えることができれば、
ハラスメントと捉えられるケースは大幅に減るでしょう。
目標達成に必要な指摘であることを、上司も部下も理解していれば、怒鳴りつける必要はなく、ただ「必要なこと」をしっかりと伝えれば十分なのです。
これこそが、心理的柔軟性の効果の真骨頂と言えるでしょう。
しかし、組織でこれを適用する際には、正しい順序が重要です。
- 会社組織の目的や価値観を共有する
- 現状できていない部分を受け入れる
- 「今、本当に必要なことは何か?」を明確にする
このプロセスに加え、チームとメンバーの「機能」と「役割」を理解することも非常に重要です。
個人の人間性を否定する必要はなく、ただ必要な役割を果たせていないために指導が必要なのだという認識を持つことが重要です。
この点を誤解すると、全く逆効果な指導や叱責に繋がってしまいます。
詳しくは第三章の「褒め方・叱り方」の部分で取り上げます。
こうした目標達成に必要なチームやメンバーの機能と役割の点で、コミュニケーションに焦点を当てているのが多様性マネジメントプログラムです。
部下が行動をしたくなる「価値」とは何か?」
第一章の最後に取り上げるのは、実際に動いてもらう部下との関係についてです。
これまで、会社の目的や価値観、目標達成に必要な機能や役割について説明してきましたが、
実際に多くの上司や管理職が最も悩んでいるのは、部下とのコミュニケーションです。
「若者が何を考えているか分からない…」
「考える力やコミュニケーションスキルが不足している…」
「何を言ってもハラスメントと言われる…」
このように、部下とのコミュニケーションに行き詰まり、どう対処すれば良いのか分からなくなっているという声をよく耳にします。
そうした状況で、多くの上司や管理職が陥りがちなのが、「仕組み」だけで部下を管理しようとすることです。
しかし、心理的柔軟性を伴いながら、どこにいつまでに向かうべきか、そのために何が必要なのかを理解していない限り、評価制度や管理体制だけを整えても、うまくいくことはありません。
さらに、部下を動かすためには、彼らの「価値観」を知ることが不可欠です。
部下も人間であり、必要以上に持ち上げる必要はありませんが、彼らが何に喜びを感じ、どんな仕事が得意であるかを把握するだけで、コミュニケーションは格段にスムーズになります。
この点については、第二章で具体的なコミュニケーションスキルを詳しく解説しますが、
まずは部下をよく知る姿勢を持つことが重要です。
上司管理職にも価値観があるはず
多様性マネジメントプログラムは、上司や管理職が多様性を持つ部下をどのようにマネジメントするかを学ぶ研修です。
しかし、忘れてはならないのは、マネジメントする側である上司や管理職自身の価値観も重要だということです。
繰り返しになりますが、上司や管理職も一人の人間です。
会社の目的や価値観があるとはいえ、なぜ自分がその会社で上司や管理職という役割を担っているのか、自分自身の価値観を見つめ直すことが大切です。
自分ならではの視点で、部下に伝えられることは何か? それを考えることが、効果的なマネジメントにつながります。
ただし、会社の目標や価値観から逸脱し、自分のエゴだけの価値観を押し付けるような指導は、目標達成を遠ざけるだけです。
目標達成に必要なことを理解し、そこに自分自身の価値観を重ねて語ることができる上司や管理職は、自然と部下から信頼され、慕われるでしょう。
第三章の「褒めることと叱ること」では、上司や管理職の価値観というフィルターが大きく影響を与える部分なので、ぜひ意識しておいてください。
第一章まとめ
第一章では、多様性マネジメントプログラムの土台となる「会社組織が描く価値ある未来」と、そのために必要な「心理的柔軟性」を見つめ直すことについてお伝えしました。
これから進む第二章、第三章でも、この心理的柔軟性が何度も重要なテーマとして登場します。
繰り返しになりますが、表面的なテクニックだけを学んでも、会社組織が根本から改善されることはありません。
明日から実行に移すことは可能ですが、これはダイエットや筋トレと同じように、継続と習慣化が必要です。
続けることで効果が見え、成果が維持ができるものです。
途中でやめてしまえばリバウンドのように元に戻ってしまうこともあります。
この「心理的柔軟性」は、時代や環境が変わっても対応できる力です。ぜひ身につけて、現代のビジネスシーンで活かしてください。
この心理的柔軟性は、時代背景や環境が変わっても通用するスキルです。
ぜひこれを身につけ、現代のビジネス環境を生き抜いてください。
第二章「技」価値共有と業務改善のための、良好なコミュニケーションスキル
第一章では、「心」の部分として心理的柔軟性についてお話ししました。
しかし、心理的柔軟性を身につけただけで、目標が達成できるでしょうか?
そうではないですよね、実際にコミュニケーションスキルを学び、それを実践することが重要です。
これがなければ、組織や業務に大きな変化をもたらすことは難しいでしょう。
この第二章では、具体的にどのようなコミュニケーションスキルが必要であり、それをどのように活用するかを学んでいきます。
良好なコミュニケーションとは?
まず、「コミュニケーション」とは何でしょうか? 弊社では、コミュニケーションを「情報伝達」と定義しています。
では、その情報伝達に「良好な」という言葉が加わると、どういう意味になるのでしょうか?
第一章でお話しした通り、会社や組織には目的や目標があり、今必要なことは何かを理解していることが大切です。
つまりこの多様性マネジメントプログラムで覚えていただきたいのは、
「目的や目標を達成するために、今必要な情報を正しく伝えること」です。
これが弊社が定義する良好なコミュニケーションです。
何度も言いますが会社や組織は、何かしらの目的を達成するために集まった集団です。
本来であれば、その目的に関係のないことはしなくて良いはずですよね。
ですから、会社や組織における良好なコミュニケーションとは、目的や目標を達成するために必要な情報の伝達をすることなのです。
この考え方はすぐには受け入れにくいかもしれませんが、心理的柔軟性と併せて進めることで、次第に理解が深まるはずです。
基本は観察、事実を把握すること
では、会社や組織の目的や目標達成に必要な情報とは何でしょうか?
その流れは次のようになります。
1.目標達成に向けて業務を進める
2.期待する結果が得られない
3.結果が得られない原因や障壁を特定する
4.原因を把握し、改善していく
これは非常に一般的な業務改善のフローだと思います。
ここで、第一章でも述べたように、若者の考えや価値観が分からないと悩む上司や管理職に共通しているのが、
「部下を観察していない」
という点です。
「分からない」と言いながら、実際に観察していないのであれば、部下のことが分からないのは当然ではないでしょうか?
もし、すでに心理的柔軟性を持ち合わせた上司や管理職であれば、
「そう言われてみれば、確かに部下を全然観察していないな」と気づき、それを受け入れてすぐに行動に移すでしょう。
できていないことをまずは受け入れる、それが第一歩です。
「忙しくて部下を見る時間がない」という声があるかもしれませんが、ここで諦めずに踏ん張ってください。
観察することは必須です。もしどうしても時間が取れない場合は、業務フローやオペレーションを見直したり、強制的に1on1ミーティングを取り入れるなど、対応策はあるかもしれません。
この研修ではコンサルティングを目的としておりませんので、そこにはあまり触れませんが、良好なコミュニケーションを築くためには、まず「部下を観察すること」が基本であるということをぜひ理解しておいてください。
なぜ部下を観察する必要があるのか?
「部下から積極的に報連相(報告・連絡・相談)をしてくるべきだ」
と考える上司や管理職は多いでしょう。
もちろん、それが理想です。現場に最も近い部下は起きていることを真っ先にキャッチしているわけですから、上司に必要な改善提案を持ち上げるのは、役割としての責任と言っても過言ではありません。
しかし現実問題、それができていたら苦労しません。
私は山陰で多くの会社組織を見てきましたが、上司自身が報連相を十分に行えていないのに、部下には積極的な報連相を求めているという場面が頻繁に見られます。
厳しいようですが、上司自身が報連相スキルに欠け部下に教えることもできないのに、それを棚に上げて部下にだけ求めている状況で、果たして良好なコミュニケーションスキルが身につくのでしょうか?
もし自分ができているのであれば問題ありませんし、多様性マネジメントプログラムを受ける必要もないでしょう。
しかし、できていないのであれば、現状を受け入れて、誰かが変わる必要があります。
部下が変わるべきでしょうか?もちろん、それも必要ですが、役割と責任を担う上司や管理職がまず変わるのが自然な流れではないでしょうか。
そのために、まず行うべきことが「部下の観察」です。観察を通して、部下の状況を把握し、より良いコミュニケーションの土台を築いていきましょう。
得た情報を事実と解釈で分ける
部下を観察する必要性について、ご理解いただけましたでしょうか?
観察ができるようになったら、必ず記録を取ることが大切です。
これを行っていない方が驚くほど多いのが現実です。ご希望があればこの記録について深掘りもしますが、例えば日報ベースで記録する程度のシンプルなもので構いません。
避けたいのは、見たことをただ記憶するだけということです。
エビングハウスの忘却曲線をご存じでしょうか?人間の記憶は数時間も経てば大部分が失われてしまいます。
それにもかかわらず、記録を取らずに記憶だけに頼る上司や管理職も少なくありません。
心理的柔軟性を持ち合わせていない状態で、記録をせずにミスをする部下と対峙すると
「なぜメモや記録を残さないんだ!」と叱ることも多いでしょう。
しかし、その一方で自分は「記憶で大丈夫」と思ってしまうことが多いのです。
では部下を観察して記録を取るとして、非常に重要な観点があります。それは
事実と解釈を分けて記録することです。
これは、逆の立場で考えると分かりやすいでしょう。
部下からの報告に、実際の出来事と個人の感想が混ざっていて、何をどうサポートすれば良いのかが分からないことはありませんか?
上司も同様に、部下の行動について「事実」と「解釈」を無意識に混ぜてしまうことが多いのです。
上がってきた報告が、実際に起きた事実なのか、それとも報告者の主観や感じたことが混ざっているのか、判断がつかずどうサポートすべきか迷った経験はありませんか?
上司も同様に、部下の行動について「事実」と「解釈」を無意識に混ぜてしまうことが多いのです。
簡単に言えば、「実際に起きたこと」と「そう感じたこと」を分けて記録することが、冷静な判断と適切な対応につながります。
事実 | 解釈 |
空が曇り始めた | 雨が降りそうだな |
外気温が33℃ | かなり暑くなりそうだ |
「こんなこと?」と思われるかもしれませんが、これはあくまで観察に基づく基本的な方法です。
部下からの報告を瞬時に「事実」と「解釈」に分けるには、もう少しテクニックが必要になります。
まずは、見て知ったことをしっかり記録するという基本から始めてみてください。
部下を疑うのではなく、人間の原理原則を知る
先ほど、観察に基づいて事実と解釈を分けて記録する方法について説明しました。
もう一歩進むと、突発的な報連相に対しても、これを頭の中で瞬時に行う必要がありますが、これが難しいと感じる方も多いでしょう。
多様性マネジメントプログラムでは、この瞬間的な対応に役立つ3つのポイントを紹介しています。
- 真実性
- 理解度
- 表現力
これは、部下からの報告がどれほど確かな情報なのか?を判断するために確認することです。
事実を観察するというプロセスにおいて、上司や管理職の方から
「部下を見張っているようで嫌だな…」
「疑っているみたいに感じる…」
という声をよく聞きますが、
ここで意識してほしいのは疑いではなく、あくまで
人間という生き物は、こういうものだという事をを理解するということです。
誰しもが陥りがちな思考や行動のパターンを、あらかじめ仮説として持っておき、部下の報告を受け止めましょう。
この考え方をもとに、さらに詳しく解説していきます。
1.真実性
部下が記録に基づかず、記憶に頼って報連相をしてくることがあります。これは嘘をついているのではなく、記憶が事実と異なってしまっている可能性があるのです。
2.理解度
報連相の内容について、部下自身が十分な知識を持っていない場合もあります。真実に基づいた記録があったとしても、内容について理解が浅く、中身が把握できていないことも考えられます
3.表現力
報告内容が事実で、部下が理解もしているとしても、表現力が不足していると、情報の漏れや上司との認識のズレが発生する可能性があります。
上司や管理職の方が報連相を受ける際は、心理的柔軟性をもって、部下の報告が上記3つのいずれかに欠けている可能性があると考えながら話を聞くことが大切です。
もしこの3つのいずれかが欠けた情報を、さらに上司側が解釈ベースで記憶に頼ってしまうと、これはもう大惨事です。
ここまで本研修の内容を読んでいただいている方なら、正確な情報伝達が良好なコミュニケーションの基礎であることがご理解いただけるでしょう。
お互いに正確な情報を伝え合えなければ、良好なコミュニケーションが成り立っているとは言えません。
報連相を受けた際には、次のような質問で確認をしてみてください。
- 「本当にそうなの?」(真実性の確認)
- 「この起きた事象について、中身は理解できてる?」(理解度の確認)
- 「ちょっと他の例えで表してくれないかな?」(表現力の確認)
こうした質問により、部下が曖昧なまま報連相をしていることに気づけるでしょう。
情報の質を整理するために、以下の基準で確認することが有効です。
評価基準 | 質の高い情報 | 質の低い情報 |
信頼性 | 事実とデータに基づいている | 主観的な意見や解釈がメイン |
関連性と有用性 | 課題に直結し有効である | 目的に無関係、効果が薄い |
完全性と時効性 | 最新情報を網羅している | 情報が古く、必要な部分が欠けている |
部下からの報連相が目標達成にどれだけ役立つのかを、このように評価し、情報の質を向上させていきましょう。
研修ではさらに、優先すべきコミュニケーションや、良い報連相と悪い報連相の見分け方も詳しく紹介します。
第三章「態」心と技をPDCAサイクルで回す。反応レベルで行う褒め叱り
褒める、叱るとは?
本来、褒めたり叱ったりすることは、あまり難しく考えるものではありません。
まずは心理的柔軟性を振り返り、会社や組織の目的・目標を意識しましょう。
組織に集まる人々は、共通の目的や目標を達成するために協力しています。
そのため、目標達成に向けて必要なことを行えば褒められ、逆に逸脱すれば叱られる—これは自然な流れです。
しかし、最近は「褒めるとセクハラ」「叱るとパワハラ」と言われることが多く、言葉尻にばかり注目される傾向があります。
こうした懸念があるからこそ、心理的柔軟性を持ち、目標に向かっていくための良好なコミュニケーションが大切です。
そのうえで、成果が出た際には適切に褒め、改善が必要なときには適切に叱ることが、上司・管理職としての役割です。
基準と条件の設定に価値観が必要
確かに「褒める」「叱る」という行為は簡単ではありません。
ここで重要なのは、「どのような行動や結果が褒められるべきか」「どのような場合に叱るべきか」といった基準と条件をあらかじめ設定することです。
こうすることで、適切で効果的な褒め方や叱り方が可能になります。
「そこまで考える必要があるのか?」と思われるかもしれません。
もちろん、考えなくても自然に人心掌握ができる人もいますが、それは多くの場合、相当な練習を積んでいるか、天性の才能によるものです。
私自身も特別な才能はないので、基準と条件をしっかりと考え、実践と失敗を重ねた結果、ようやく適切に褒め叱ることができるようになりました。
基準と条件を決めるのが難しいと感じる方も多いと思いますので、ここで具体的なポイントをお伝えします。
褒めるポイント
〇ヶ月前にはできなかったことができるようになったとき、
その成長をしっかりと捉えて、事実や行動に基づいて褒めてあげること
私は部下と接する際、これを意識して観察し、過去の状態を記憶しています(皆さんは記録することをお勧めします)。
そして、成長が見られた際には
「〇か月前にできなかったこれができるようになったじゃん!」と事実ベースで褒めてください。
また、褒める際にはもう一歩踏み込んで、「あれから何か工夫したの?」「意識して取り組んだことはある?」といった質問でインタビューをしてみましょう。
できなかったことができるようになった事実を褒めるだけで、部下自身が改善のプロセスについて語ってくれることが多いです。
さらに、他の部下にも同様の課題がある場合には、次のように伝えましょう。
「○○さんもこれに悩んでいるみたいだから、今教えてくれたコツをシェアしてもらえる?」
こうして部下にお手本役を頼むことで、さらに自信を持たせることができます。
こうした関わり方をされたら、やる気が出ない部下はほとんどいないでしょう。
このように効果的な褒め方を実現するには、第二章でお伝えしたように、日頃から部下を観察し、行動の変化をしっかり把握しておく必要があります。
何も事実を掴んでいない上司が適当に褒めると、
「普段から見てくれていないのでは…?」
と逆効果になることもあるので注意しましょう。
褒めたり叱ったりする際には、「ニューロロジカルレベル」という理論を参考にしたスキルもあります。
この理論では、行動の事実や結果に加えて、その人の内面や成長にフォーカスを当てた関わり方を行います。
例えば、先ほどの「〇か月前にできなかった行動を事実ベースで褒める」方法に加え、そのプロセスや努力に注目し、より深いレベルでフィードバックするのです。
詳細に関心のある方は、ニューロロジカルレベルやNLP(神経言語プログラミング)について検索してみてください。
多様性マネジメントプログラムの研修でも、上級テクニックとして取り入れていますので、さらにスキルを磨きたい方にぜひ学んでいただければと思います。
状態づくりが上司・管理職の最大の仕事
ここまでの内容を通じて、多様性マネジメントプログラムの第一章から第三章までが一貫していることが少しずつ見えてきたのではないでしょうか。
第三章の「褒める・叱る」は、部下を「評価する」ことに直結します。
評価制度で悩む会社も多いですが、根本にあるのは目的や目標、そして価値観がどこまで浸透しているかです。
目標に向けて成長や成果が見られれば褒め、基準に達していなければ叱る——ごく当たり前のことです。
これに合わせて、数値的な評価基準を設け、成果が待遇にも反映される仕組みを作ることで、評価制度は機能します。
ただし、研修の中で学んできたような基本的なスタンスを無視して、評価制度や仕組みのみで管理しようとしてもうまくいかないのは当然だとおもいませんか?
プログラムにおける「心技態」のプロセスで、「態」を「体」ではなく「態」と表現しているのは意味があります。
上司や管理職が
- マインドセットやスタンスを持つ
- 実際のコミュニケーションを行う
- 瞬時の反応として褒め・叱る
といった状態を作ることこそ、管理職に求められる役割です。
ただ知識として理解するだけではなく、それを日常の中で実践し、習慣にしていく。
目標達成のために必要なことを常に行う状態があれば、どれだけ多様化が進み変化のスピードが加速しても対応できるはずです。
部下となる社員も、それぞれの心技態を身につけて成長していく必要がありますが、まずは上司・管理職が変わり、率先してこの姿勢を示していきましょう。
このサイクルが組織内で自然に回るようになれば、目標達成に向けたPDCAも安定して進むでしょう。
まとめ
ここまで全て読まれた方、ありがとうございました。いかがでしたでしょうか?
「最近の若者」や「Z世代」という視点だけでなく、「人間そのもの」に焦点を当てて考え、部下の特性を知り、適切にコミュニケーションを取るための方法をお伝えしました。
実は年齢や性別といった多様性は、コミュニケーションが上手くいかない原因ではありません。
特に第一章で紹介した「心理的柔軟性」の部分を繰り返し読んでいただくことで、少しずつその考え方が身についていくと思います。社内で上司・管理職の方だけでなく、部下の方にも共有し、意見交換や実践に活用していただければ幸いです。
少しでも組織がより良い方向に変わるきっかけになれば、これほど嬉しいことはありません。
また、「実践が難しい」「もう少し具体例やコツが知りたい」と感じた場合は、どうぞお気軽にご相談ください。
心理的柔軟性を持って、丁寧にヒアリングさせていただきます。
【ご相談により目指せる成果】
- 職場における生産性の向上:
的確なコミュニケーションにより、情報共有や業務効率が改善され、部下のモチベーションも向上します。 - 風通しの良い組織文化:
部下が積極的に意見やアイデアを出せる環境が整い、上司・部下の垣根を越えた協力体制が築かれます。 - 変化に対応できる強いチーム:
心理的柔軟性を身につけることで、多様な視点や変化を積極的に受け入れ、柔軟な対応力を持つチームが形成されます。
まずは小さな一歩から始めてみませんか?
組織が抱える課題の解決や、目指すべき未来への道筋を一緒に描きましょう。
受講者のリアルな声をぜひご覧ください!↓↓
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